“売る”ってどういうこと?──ある1冊の本が教えてくれた視点の転換

マーケティング

こんにちは。あいうえです。

今日も、ちょっと役立つお話をお届けします。

今回は「ドリルを売るには穴を売れ」(佐藤義典著)という本についてのお話です。

◆ はじめに|また一冊、マーケティングの本を手に取ってみた

前回ご紹介したのは、『あなたの会社が90日で儲かる!』というマーケティングの本でした。 「感情に訴えかけるマーケティング(=エモーショナル・マーケティング)」をテーマにした内容で、ふだんマーケティングに関わらない私にとっても、とても新鮮な学びがありました。

その本を読み終えたあと、「他のマーケティング本では、どんなことが語られているんだろう?」と興味が湧き、次に手に取ったのが今回の一冊――『ドリルを売るには穴を売れ』です。

タイトルからして、思わず立ち止まってしまいました。 「えっ、どういう意味?」「穴を売るってどういうこと?」と、つい気になってしまうフレーズです。

ちなみに、前回の本もショッキングピンクの派手な表紙が印象的でしたが、今回の本もぱっと目を引く黄色い高帯が目印。 (と思いきや、実際の表紙は白。つい装丁に惑わされました……)

そういえば、『あなたの会社が〜』では、この「目を引く色」自体にもマーケティング上の意味があると説明されていました。「認知的不協和」をうまく活用して、あえて違和感を感じさせることで記憶に残す――まさに戦略のひとつですね。

さて、本書『ドリルを売るには穴を売れ』は、売上不振に悩むイタリアンレストランの再建ストーリーを軸に、マーケティングの基本をやさしく解き明かしてくれる内容です。

ただの理論書ではなく、ストーリー仕立てになっているため、知識ゼロでもスッと読めます。 しかも、主人公である企画室の社員と一緒に試行錯誤しながら学んでいく感覚があるので、読んでいて自然と引き込まれていきました。

◆ マーケティングの基本はこの4つ

本書では、マーケティングを理解するうえで欠かせない「4つの基本要素」が紹介されています。これが、本書の柱となっています。

①ベネフィット

②セグメンテーションとターゲティング

③差別化

④4P

の4つです。それぞれみていきましょう。


① ベネフィット(Benefit)|顧客が本当に求めている“価値”とは?

マーケティングの出発点は、「この商品が、顧客にどんな価値をもたらすのか?」を考えることです。

その価値=ベネフィットとは、商品そのものではなく、商品を通じて得られる“望ましい結果”や“体験”のこと。 つまり、ドリルを買いたい人は、ドリル自体が欲しいのではありません。 本当に求めているのは、「壁に空いた、ちょうどいいサイズの穴」です。

この“穴”こそがベネフィット。 商品はあくまで手段であって、目的は「お客が達成したいこと」にあります。

タイトルにもなっている「ドリルを売るには穴を売れ」は、まさにこのベネフィット思考を象徴する一言です。 「モノを売る」のではなく、「モノを通して得られる結果=価値を伝える」ことこそが、マーケティングの第一歩だと教えてくれます。


② セグメンテーションとターゲティング(Segmentation & Targeting)

顧客を分類し、狙いを絞ること。 万人に売ろうとするのではなく、「誰に向けて届けるのか」を明確にすることで、効果的なアプローチが可能になります。


③ 差別化(Differentiation)

「自社の強みは何か?」を明確にすること。 他社とどう違うのか──その違いを軸に価値を伝えていくことが大切です。 本書では、差別化の軸を以下の3つに分類しています:

  • 手軽軸:価格を抑え、便利さやスピードで勝負
  • 商品軸:品質や技術力など、製品そのものの価値で勝負
  • 密着軸:顧客のニーズに寄り添い、きめ細かいサービスで勝負

どれを軸に選ぶにせよ、「すべてを兼ね備える」は現実的ではありません。 たとえば、「高品質で、しかも安くて、丁寧な対応」──そんな夢のような提供は、どこかに無理が生じるはずです。

さらに筆者は、「選んだ軸以外でも、一定以上の水準が求められる」と指摘しています。 たとえば、いくら安くても味がひどければラーメン屋には行きませんよね。 (=手軽軸が良くても、商品軸が極端に低ければ失敗するということ)

このように、具体例を交えて丁寧に解説されているので、非常にわかりやすいです。


④ 4P(製品・価格・販路・広告)

「価値をどうやって届けるか」を考えるための基本フレーム。

  • Product(製品)  あなたは何を売っているのか?  それはどんな顧客に、どのような価値を提供しているのか?  ──この問いは、まさに「事業の本質」を問うものです。
  • Price(価格)  その価値に、顧客はどれだけの対価を払うと感じているか?  価格戦略は、価値と一体で考える必要があります。
  • Place(販路・チャネル)  その商品・サービスは、どこで、どのように届けるのか?  販売経路や流通も、価値実現の大事な一部です。
  • Promotion(広告・販促)  「買ったことがない人」に価値を“感じてもらう”ことが目的。  単なる宣伝ではなく、顧客の心に届く伝え方が求められます。

これら4つはバラバラに考えるのではなく、一体として設計することが大切です。 どれか1つでも欠けていれば、顧客には魅力的に映らない。 ──そんな当たり前のようで見落としがちな原則が、しっかりと解説されています。

◆ まとめ|「マーケティングは心の中で起きている」

本書の初版は2007年1月。もう20年近く前になります。ちなみに、当時の東京ディズニーリゾートの1日パスは5,800円だったそうです(今では考えられないですね)。

それでも、本書に書かれているマーケティングの考え方は、今でもまったく古びていません。 むしろ、「はじめてマーケティングを学ぶならこの一冊」というほど、基本がしっかり詰まっています。

私はマーケティングの専門家ではなく、普段の仕事でマーケティングに関わっているわけでもありません。 それでも本書はとても新鮮で、学びが多く、最後まで楽しく読むことができました。

章ごとに、前半では理論をわかりやすく紹介し、後半ではイタリアンレストラン再建のストーリーを通じて実践的な知識が自然と身につく構成になっています。

会話調のストーリーに苦手意識を感じる方もいるかもしれませんが、そこは読み飛ばしても十分に価値のある内容です。

印象的だったのは、最後に出てくるこの一文です:

「マーケティングは、お客様のココロのなかで起きている」

これは、前回ご紹介した『あなたの会社が90日で儲かる!』と通じるものがあると感じました。 やはりマーケティングとは、「相手がどう感じるか」「顧客の立場に立って考えること」がすべての出発点なのだと思います。


こんな人におすすめ

  • マーケティングの基本を知りたい
  • 難しい専門書ではなく、読みやすい本を探している
  • 実例を通して楽しく学びたい

そう感じている方には、きっとピッタリの一冊です。


ドリルを売るには穴を売れ

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